熱処理とは

熱処理とは、一口で言えば「赤めて」「冷やす」ことです。赤めて冷やすことによって鋼の体質改善をはかる操作が熱処理ということになります。
この熱処理のルールで最初に覚えなければならない言葉に、変態という言葉があります。変態のないものは熱処理ができないからです。変態というのは性質が変わることを言います。例えば鉄の棒を加熱します。温度が上昇するとともに、棒の長さは徐々に増していきます。これは変化です。ところがある温度に達すると、今まで伸びていた棒が加熱しているにもかかわらず、突然縮まるのです。これが変態です。変態を超す温度を変態点といいます。
鋼にはこの変態が全部で5つあります。熱処理に大事なのはA1とA3の2つです。A1変態点は730℃、A3変態点は鋼の種類で異なりますが900~730℃のあいだです。
ここで熱処理のルールが生まれてきます。鋼を硬くしたり、軟らかくしたりするには、必ずこのA1変態点(730℃)を越さないとなりません。焼入れや焼きならしはA1変態点を越して赤める必要があります。一方、焼き戻しはA1変態点以下で熱処理を実施します。
一般的な熱処理には「焼入れ」「焼き戻し」「焼きなまし」「焼きならし」などの加工方法があります。
下記にその熱処理方法について表にしました。

当社で実施の熱処理は、溶接後熱処理と固溶化処理(特殊熱処理)を行っています。

溶接後熱処理とは

溶接後熱処理は溶接後に溶接部又は溶接構造物に対し行われる熱処理のことをいいます。
溶接後熱処理(post weld heat treatment 略所PWHT)は溶接継手部を金属の変態点以下で、かつ溶接部の性能を改善し、溶接残留応力などの有害な影響を除去するのに十分な温度に均一に加熱、一定時間保持し、その後均一に冷却します。
溶接後熱処理は残留応力及び変形対策(溶接残留応力の緩和、形状寸法の安定)母材・溶接部・構造物の性能、改善(溶接熱影響部の軟化、溶接金属の延性の増大、破壊靱性の向上など)を目的として実施されます。
たとえば2枚の板を溶接すると、溶接線方向に高い引張応力、その外側にこれと釣り合う圧縮応力が発生、残留します。引張応力の最高値は多くの場合、降伏点に達し、圧縮応力はこれより小さく、溶接線直角方向には、長手方向に変化する残留応力が生じ、この値は拘束がない場合は小さく、溶接線直角方向の収縮が拘束されていると大きくなります。拘束が大きいと全断面に引張残留応力が生じてきます。
溶接残留応力は、静的引張強度にはほとんど影響しませんが脆性破壊、疲れ破壊、座屈などに影響があり、応力腐食割れなどにも影響します。
溶接後熱処理は、残留応力の影響のほか、変形や溶接によって生じた硬化や脆化などの影響を除去、または緩和するために行われています。溶接後熱処理を実施する場合は設置する場所などで規格が異なります。その規格内に熱処理の方法が規定されています。
下記はJIS規格の熱処理方法 (抜粋)です。

溶接後熱処理では、溶接構造物(圧力容器、配管など)など全体を炉内に入れて加熱する炉内溶接後熱処理と全体を炉内で加熱できない場合、輸送上等で現地で組み立てを行う場合、また、現地配管溶接など、胴、配管の周溶接に原則、適用されます。
局部溶接後熱処理は炉内溶接後熱処理と同じ熱処理効果を期待することはできません。各規格で規定されている、規定保持温度に加熱し保持すべき範囲(有効加熱範囲)確保して、温度こう配が有害にならないような加熱範囲を設定することが求められています。

固溶化熱処理とは

固溶化熱処理(特殊熱処理)とは、高温にしてから急速に冷却させる処理のことで、大半のオーステナイト系のステンレスに施されます。 固溶化熱処理の目的は、加工や溶接などによって生じた内部応力を除去し、劣化した耐食性を復活させるなど、鋼組織の改善のために行うものです。
650℃近傍の加熱、あるいは多重溶接熱サイクルを受けて炭化物が粒界に析出し、粒界のCr欠乏によって耐食性が低下したとき、1000℃以上で加熱、急冷して炭窒化物を固溶させると同時に溶接残留応力、加工組織をなくすことを目的としています。

固溶化処理後の良否の判定は、結晶粒度試験(しゅう酸エッチング試験)により確認することができます。結果は段状組織、混合組織、溝状組織に分類されます。熱加工、溶接等では多くの場合、溝状組織の鋭敏化になっています。大気に曝されているだけの環境の使用であれば、溝状組織であっても何ら問題はありません。しかし、腐食環境によっては粒界腐食や応力腐食割れを生じるリスクもあります。鋭敏化の許容範囲は使用環境によって決まります。厳しい使用環境下では溝状組織を不合格としています。

固溶化前の撮影写真
(溝状組織)

固溶化後の撮影写真
(混合組織)

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